東京高等裁判所 昭和37年(行ナ)177号 判決
(争いのない事実)
一 本件における出願から審決謄本の送達に至るまでの特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び本件審決理由の要点が、いずれも、原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。
(審決を取り消すべき事由の有無)
二 原告は、本件審決を取り消すべき事由として、本件審決には、本願考案の構成要件の一つである「酸化室8をもつて上部を遮蔽せられた浮渣室5を設けた」構成及びこれに伴う浮渣室上部と外気との接触を十分に遮断の作用効果が従来公知例(たとえば、甲第六号証の二のもの)にないことを看過し、その判断を遺脱した違法がある旨主張するが、この主張事実を肯認することはできない。これを詳言するに、成立に争いのない甲第六号証の二に表示された汚水浄化装置においても、酸化室をもつて浮渣層の上面(一部を除き)を遮蔽する構成が採られており、その限りにおいて、本願考案のものと構成、したがつて、それに伴う作用効果において差異がないものとみざるをえない。原告は、この点に関し、本願考案においては、上記の構成は、中央掃除口21は蓋20で密閉せられることと相まち、これによつて浮渣室上部は外気から十分に遮断され、その内部に嫌気性菌の繁殖と活動を促進するという独特の効果を挙げられる旨主張するが、中央掃除口に蓋を設けたとしても、これをもつて中央掃除口21を密閉する旨の本願明細書における記載にかかわらず、本願装置の構造上、右蓋が中央掃除口を厳密な意味において密閉して、外気との接触を完全に遮断しうるものとは到底認めることはできないから、はたして、これらの構造のみによつて、原告主張のような効果がもたらされるものか、また、そのような効果が前記甲第六号証の二のものには期待できないものであるかどうか、はなはだ疑問といわざるをえない。
(むすび)
三 以上説示のとおりであるから、本件審決にその主張のような違法のあることを理由にその取消を求める原告の本訴請求は、結局、理由がないものといわざるをえない。
〔編註その一〕 本件における原告の主張は左のとおりである。
一 特許庁における手続の経緯
原告は、加藤鋭吉より「汚水浄化処理装置」につき特許又は実用新案登録を受ける権利を譲り受け、昭和三十一年十二月二十七日、特許出願(同年特許願第三二、五七三号)をしたところ、昭和三十四年二月七日拒絶査定を受けたので、同年三月十三日、これを、旧実用新案法(大正十年法律第九十七号)第五条の規定に基づき、実用新案登録出願に変更(同年実用新案登録願第一六、七八八号)したが、同年十一月十四日、拒絶査定を受けた。原告は、これを不服として、同年十二月十九日、抗告審判の請求(同年抗告審判第二、九六四号事件)をしたところ、昭和三十七年八月二十九日、「本件抗告審判の請求は成り立たない」旨の審決があり、その謄本は、同年九月十七日原告に送達された。
二 本願考案の要旨
別紙図面に示すように、腐敗槽4の上部に汚水供給管1と流出管とに連通する分離槽3を設けて両者を固形物の通路18にて連通せしめるとともに、酸化室8をもつて上部を遮蔽せられる浮渣室5を分離槽3の上部に設けて両者を浮渣物の通路19にて連通せしめてその各室4、3、5のいずれも標準水面L以下にあらしめ、かつ、前記酸化室8内にジグザグ型の突堤11を数多設置せしめて成る汚水浄化処理装置の構造。
三 本件審決理由の要点
本件審決は、本願考案の要旨を前項掲記のとおり認定したうえ、「し尿処理槽において、第一槽を上下二室に区分し、下室を水中にあらしめて腐敗槽としたもの及び腐敗槽の上部に酸化室を設け、腐敗槽の汚水を濾過槽を経て酸化室に移流するようにしたものが従来公知であり(昭和三〇年八月二八日社団法人日本管工事工業協会発行「し尿浄化そう」第一六六頁、一六七頁及び昭和三年実用新案出願公告第七、八一一号公報参照)、本願のものをこれら公知のものと対比すれば、
(一) 腐敗槽4の上部に汚水供給管1と流出管とに連通する分離槽3を設けて、両者を固形物の通路18にて連通させるとともに、浮渣室5を分離槽3の上部に設けて、両者を浮渣物の通路19で連通させ、
(二) 酸化室8内にはジグザグ型の突堤11を数多設置した点に差異があるが、汚水の給送を受け、これを分離し、空気の流通を遮断して腐敗消化させる汚水の槽において、汚水供給管と流出管とに連通する分離槽を中層に設け、固形物の通路で連通しながら、分離槽によつて下槽に汚泥消化室を区画し、また、該分解槽の上層には浮渣物の通路で連通しながら浮渣室を区画することは、従来しばしば行われており、前記(一)の点には格別考案は存在せず、また同じ(二)の点も、従来しばしば行われているところにすぎないから、本願考案は前記公知例から容易に得られるものであり、換言すれば、構成全体として特殊の点もなく、旧実用新案法第一条の考案とは認められない」旨説示した。
四 本件審決を取り消すべき事由
本願考案の要旨が審決認定のとおりであること、審決認定の構造のし尿処理槽が本願考案の登録出願前公知であつたこと、右公知例と本願考案との構造上の差異が審決認定のとおりであること及びこれら差異点に関する審決の認定が妥当であることは、原告においても、これを争わないが、本件審決は、本願考案の構成要件の一つである「酸化室8をもつて上部を遮蔽せられた浮渣室5を設けた」構成が従来の公知例にないことを看過し、この点に関する判断を遺脱した違法がある。すなわち、本願考案においては、このように、浮渣室5が酸化室8で上部を遮蔽せられることにより、浮渣室は外気との接触を十分に遮断され、これに関連して、浮渣室5の上部中央掃除口は蓋20で密閉せられ、このように浮渣室5が外気から十分に遮断せられていることにより、浮渣室内における嫌気性菌の繁殖と活動とが促進せられ、その活動による汚水中の有機物の分解が盛んとなり、汚水の浄化作用が行われるので、このような構造及びこれに伴う作用効果は、審決が参照として引用する実用新案公報(甲第六号証の二)のものには存しないところである。